コールドブリューに最適な豆とは?プロの選び方とおすすめを紹介

コールドブリューには、ドリップコーヒーやエスプレッソとは異なる豆が合う。コールドブリューに最適な豆を見つけるために、専門家にアドバイスをもらった。
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Photograph: Matthew Korfhage; Getty Images

コールドブリューコーヒーは、コーヒーのなかでも味わいが最も穏やかなものだろう。心地よく甘く、暖かい日にのんびりと楽しむのに最適である。その違いゆえに、コールドブリューに適した豆は、ドリップやハンドドリップ、エスプレッソに適した豆とは必ずしも同じではない。コールドブリューは、お湯での抽出とはまったく別物だ。12~24時間かけて優しく抽出することで、豆本来の甘さを引き出すのである。

わたし自身の見解もある。『WIRED』のコールドブリューメーカーのガイド記事(英文)をつくるために、過去1年で10種類以上のメーカーをテストしてきた。しかし、この分野にさらに深く取り組んでいる人たちがいる。コーヒーのサブスクリプションで知られるTrade Coffeeのコーヒーディレクター、マチェイ・カスペロヴィッチだ。カスペロヴィッチのチームは、コールドブリューに最適な90種類のコーヒーを選定し、同社の新しいコールドブリュー向けサブスクリプションに組み込んだ。また、ポートランドのStumptown Coffeeで製品開発およびコールドブリュー部門のディレクターを務めるブレント・ウォルチンスキーは、米国屈指のカフェやパッケージ入りコールドブリューをつくってきた。

今回わたしは、カスペロヴィッチとウォルチンスキーに話を訊いた。ふたりには、どの豆がコールドブリューに適していて、どれが適していないのかという選び方のコツや、コールドブリューにまつわる誤解などについても解説してもらった。

Photograph: Getty Images

コールドブリューとは何か?

まず前提として、「コールドブリュー」とは単に冷たいコーヒーのことではないということを記しておきたい。コールドブリューとは“過程”なのだ。つまり、常温またはそれ以下の水温で、数時間かけてゆっくりとコーヒーを抽出する方法を指す。市販されている、素早くコールドブリューがつくれるコーヒーメーカーの多くは、実際には「アイスコーヒー」をつくっている。これは熱湯で淹れたコーヒーを急冷して、不快な風味が出るのを避けるやり方だ。これも悪くはないが、コールドブリューとはまったく別物である。香りは出やすいが、なめらかさや甘みは控えめだ。

伝統的なコールドブリューメーカーの使い方はとてもシンプルだ。豆を粗挽きにして水に浸し、12~24時間放置する。濃縮液をつくってから水やミルクで割る場合は、重量比で4:1か5:1が目安だ(キッチンスケールがあると理想的だが、1パイントの水に約4オンスの豆[約500mlの水に対してコーヒー豆約110g]でも問題ない)。

わたしのお気に入りは「Oxo Compact Cold Brew Maker」で、使いやすさと抽出性能、味のバランスが優れていると思っている。大量につくるなら、レストランやカフェでも使われている「Toddy Cold Brew Maker」がいいかもしれない。より簡単に、薄めのコールドブリューをつくるなら、「Hario Mizudashi」のようなバスケット型もおすすめだ。

コールドブリューに最適な豆とは?

コールドブリューは、長時間・低強度で味を引き出すプロセスなので、ホットブリューとは異なる結果になる。優しい抽出によって、刺激や苦味が抑えられ、甘さ、コク、丸みのある風味が引き立つのだ。

カスペロヴィッチとウォルチンスキーのアドバイスを以下にまとめた。

1 中煎りがベストバランス

カスペロヴィッチによると、コールドブリューに最も適しているのは中煎りだ。Trade Coffeeのコールドブリューコレクションにも、中煎りが最も多く含まれている。浅煎りの豆は、クラフトコーヒー愛好家に人気の明るさのある風味があるが、中煎りに比べて抽出にやや時間がかかり、難易度も高い。

「理論的には、深煎りのほうがわずかに溶解しやすいです」とカスペロヴィッチは言う。「だから中煎りや深煎りのほうが抽出は少し簡単になります」。ただし、浅煎りや中煎りのほうが香りに面白みがあるため、バランスが重要だ。ウォルチンスキーも「適切に焙煎された中煎りこそが、コールドブリューにおけるスイートスポットでしょう」と同意している。両者とも、深煎りは「味が平坦になりがち」として推奨していない。

2 浅煎りの驚きを楽しむ

ウォルチンスキーは「花のような香りや、果実味のあるアフリカ産の浅煎りコーヒーを使ったコールドブリューを楽しんだことがあります。素晴らしいものです」と語る。例えば「Ethiopia Mordecofe」は、フローラルでジューシーな一杯になり、ブラックで飲むのが最適だという。そもそも、わたしがウォルチンスキーに話を聞いたきっかけも、以前試したStumptown Coffeeのエチオピア産Gujiを使ったコールドブリューが非常に印象深かったからだ。

3 ミルクを入れるなら中~深煎り。ブラックで飲むなら浅煎りも

浅煎りはコールドブリューにすると風味が控えめになるため、ミルクを加えるとその繊細さが失われやすい。中煎りのほうがミルクと相性がいい。ウォルチンスキーは「ミルクにも負けないカップが好みなら、中南米産の中煎りがおすすめです」と語る。そして、「ブラックで飲むなら、浅煎りのアフリカ産なら、明るく、果実味のある味わいを楽しめます」と続ける。

Photograph: Matthew Korfhage
4 チョコレートやキャラメルのような風味が相性抜群

キャンディバーのような風味はコールドブリューと非常に相性がいい。ウォルチンスキーは「コールドブリューという抽出方法は、甘さを際立たせるのにとても向いています。特に高品質な中煎りのコーヒーは、チョコレートやキャラメルといった味わいになりやすいです」と語る。そして、「そうした風味は、ブラックでもミルク入りでもバランスよく楽しめます」とも付け加える。

カスペロヴィッチも同様の意見だ。彼によると、コールドブリューでは繊細な香りを引き出すのは難しいが、「チョコレートやキャラメル、ナッツといった、キャンディバーを連想させるような力強く大胆なフレーバーはしっかりと際立ちます」とのこと。「もともとチョコレートのような風味を持っている豆が、コールドブリューではよりいい結果を出しやすいです。つまり、豊かで丸みのあるボディ、なめらかな味わい、甘さが強く、カラメル化した風味を含んだコーヒーです」と語る。豆の袋やロースターのウェブサイトに記載されている、フレーバー説明を参考にしよう。

5 産地のヒントも役に立つ

ラテンアメリカ産(特にブラジル)はチョコレート系の味が出やすい。豆の袋に「ブラジル」とあるなら、それはきっといいサインだ。カスペロヴィッチが特に推すのは、Portrait Coffeeが提供する「Toni」で、甘くナッティでチョコレート感の強いローストだ。一方、東アフリカ産は果実味・ベリー系の風味が多い。

Photograph: Matthew Korfhage
6 ブレンドなら、バランスのとれた風味が得られる

カスペロヴィッチによると、エチオピア産シングルオリジンの、大ぶりでフルーティー、そして明るい風味のコーヒー豆は、中煎りにするかチョコレート系の豆と組み合わせることでしっかりとその風味を引き出すことができるという。

Trade Coffeeのコールドブリュープログラムのために、カスペロヴィッチが選んだのは、コロラド州のBoxcar Roastingによる南米産と東アフリカ産の豆をブレンドした「Cherry Picker」だ。これは、チョコレートがけチェリーのような味わいとしてと紹介されている。また、PT's Coffee Roastingの「Cold Front」ブレンドは、グアテマラ産とエチオピア産の中煎り豆を組み合わせており、なめらかで濃厚なブラックベリーとキャラメルのような味わいに仕上がっているとのことだ。

Stumptown Coffeeも季節限定のコールドブリューブレンドを展開しているが、通年で入手できる「Homestead」もまた、バランスのとれた味わいを楽しめる。

7 「フルボディ」「リッチ」と書かれた豆を狙う

豆袋に「フルボディ」や「リッチ」などの表現があれば、コールドブリュー向きのフルフレーバーが期待できるとカスペロヴィッチは語る。そうした豆は抽出効率もよく、豊かな味わいを引き出しやすい。

Photograph: Matthew Korfhage
8 一番高価な豆は使わなくてもいい

コールドブリューでは、ドリップやエスプレッソよりも多くの豆が必要になる。場合によっては1.5倍以上の豆量が必要だ。高級なシングルオリジン豆を使っても、必ずしもその繊細さが引き出せるわけではないと、カスペロヴィッチは指摘する。冷たさゆえに風味が抑えられることが多く、ホットで淹れた方がコストパフォーマンスいいと感じられるかもしれない。だから、もし財布の中身を大事にしたいなら、風味がはっきりと強く出るようなブレンド豆を選ぶといい。

9 鮮度はやはり重要

古くなった豆や劣化した豆はコールドブリューに向いているという、妙な噂がある。おそらく、ホットブリューよりもコールドブリューのほうが劣化に寛容だと思われているのかもしれない。しかし、カスペロヴィッチは、新鮮な豆が一番だとためらいなく断言する。コールドブリューは低温のため酸化の進行はゆっくりだが、それでも酸素に晒されれば、劣化した豆特有の段ボールのような味やくたびれた風味はしっかり出てしまう。劣化した豆を使えば、そうした風味がより早く現れ、冷蔵庫での保存期間も短くなりますと彼は説明する。

10 高地栽培豆は本当にいいのか?

高地栽培の豆がコールドブリューに適しているという主張もあるが、カスペロヴィッチもウォルチンスキーもこれには否定的だ。高地で育った豆は確かに品質が高く、繊細な風味を持つことが多いが、そうした繊細さはコールドブリューでは生かされにくい。

11 アイスコーヒーにはどんな豆が合う?

アイスコーヒーには、普段使っているドリップやエスプレッソ用の豆をそのまま使えばよい。抽出後すぐに氷で冷やせば完成だ。カスペロヴィッチいわく、豆に関して、特に新たな選び方は不要だという。ウォルチンスキーはアイスコーヒーは「渋み」のある構造になっていて、ミルクや氷とよく合うという。一方で、コールドブリューはブラックで飲むと最も爽快だと付け加える。

(Originally published on wired.com, translated by Mamiko Nakano)

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